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小説の感想日記中心です。
音楽、映画なども気に入ったものがあれば書こうと思います。
ネタバレしてるようで、肝心なところは隠しているギリギリの線で書いてるつもりです。
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人質カノン



宮部みゆきさんの「人質カノン」を読み終えた。

ありふれた日常の中のミステリーを集めた短編集である。
どれも甲乙つけがたく、すばらしい作品だった。
読んだ価値があったと素直に思う。
全てに、人間の心理描写が巧く表されていた。

7編中3編が、いじめを題材にしたものだった。
他には、
よく立ち寄るコンビニで出くわした強盗。その犯行の背景にある悲しい事実を描いた表題作「人質カノン」
電車の網棚に置き忘れられた手帳から、ひとりの女性の人生の葛藤を知る「過去のない手帳」
などが収められている。

ここでは、ひとつだけ紹介してみる。

「生者の特権」
辺りのマンションの階数を確認しながら、深夜の町を歩く田坂明子。その様子は意味ありげである。そこに、小学校に忍び込もうとしている男の子を見つける。
こんな夜中にひとりで・・・。
気になった明子が事情を聞いてみると、宿題を隠されて持って帰れなかったという。
そして、暗くなるまで見張られていたのだと。
男の子はいじめにあっていたのだ。
彼を説得して一度は家に送り届けるも、やはり放って置けなくなった明子は、いっしょに学校に行ってあげることに。
明子は彼の中に、今の自分と通じるものを見つけていたのだった。
一夜限りの、大きな冒険が始まる。


語り手の田坂明子は、この一夜の出来事で、大きなエネルギーを得ることに成功している。明子が感じた、男の子と自分との同じ部分は、誰もが持ち得る一種の心の闇だ。
いじめにあう男の子が、そして一夜の冒険が、その闇と外界とをつなぐ穴を開けてくれたんだと思う。
中にいる自分からは、どうあがいても開けられない。
目がその役割を果たさない闇の中。
そこに届いた光は、明子には、とても眩しかったのだろう。
最後の場面で明子が涙を滲ませたのは、そういう意味があったのだと、解釈できるかもしれない。
そしてそこで何度も同じ言葉をつぶやくのが、印象的だった。

他と比べると、この作品は特に読者に対するエールが込められていたと思う。


誰もが知る、日本を代表する作家でありながら、自分はこれまでひとつも宮部みゆきさんの作品を読んだことがなかった。
スタートとしてこの作品を選んで、正解だった。
それは、2009年のスタートという意味でも、同様に。


そして、気付いたことがひとつ。

わずかでも、最後に希望を見出す終わり方を求めていること。

現実はうまくいかないことばかり。だからこそだ。
希望を見つけた主人公の未来を、自分の身をもって、自ら紡いでいこう。
そうやって生きてみるのはどうだろうか。
それは、深く考えることではなくて。

人生のちょっとした味付けとして。
| 宮部みゆき | 14:33 | comments(0) | trackbacks(0) |